マリアについてくと、バカでかく煌びやかな扉の前に着いた。
廊下の天井も高いし、扉も大きくて当たり前か。 ここに王様がいるのだろうか。「勇者様を連れてまいりました」
扉の前にたったマリアが近衛兵たちに話しかける。
扉の前に立つ近衛兵が大きな扉の取っ手に手をかけ、扉を押す。 そこには広い大きな間が広がっていた。奥の方のこれまた豪華な椅子に座っているのが、国王だろうか。
国王の前につき、マリアが跪く。 それと同時に、俺の方に目を送る。 あっ、俺も同じことしないといけないのか。 慌てて、俺も跪く。「勇者様がお目覚めになりました」
マリアがそう告げると、国王が顔を崩す。
「よく目覚めてくれた。私が国王のマルクス・アウレリウス八世である。
勇者をせっかく召喚したのに、このまま死んでしまうのではないかと思った」勝手に呼び出しておいて、勝手に殺されてしまったら、かなわない。
「貴方が、国王が俺を呼び出したのか?」
ちょっとムキになり大声で国王に話しかけた。
そして、つっかかるように話す。「正確に言うと呼び出したのは私ではない
ただ、私が命令して、召喚の儀式をしてもらったのだ」俺の様子に多少ひるんだのか、弱弱しい声で国王が答える。
「勝手に呼び出されて、勇者と言われても困るんだが……」
さらにつっかかる俺。
国王が困った顔をして話し始める。「確かにそれはわかるが、こちらとしても事情があってな」
今の状況を長々と説明しはじめた。
纏めると
まず、前任の勇者が150年前に魔王を追い詰めたが、討ち取るまでには至らなかった。 勇者たちは深手を負って帰還。 その後、しばらくは平和になった。 ただ、最近になり魔王軍が攻め込んで来るようになった。魔王に対抗する手段は、この世界にはない。
異なる世界から勇者を呼び出すしかない。 前任の勇者もそうだった。 ということらしい。勝手に呼び出されて、魔王と戦えと言われてもな。
でも戻る手段はなさそう。 覚悟を決めるしかなさそうだ。「事情はわかった。
こうなった以上は仕方ないのかな…… で、この後はどうすればいいんだ」その言葉を聞いた国王の顔がほころぶ。
「そうか。引き受けてくれるか。よかったよかった。
では早速だが、シルフィーネ村に向かってほしい。 魔物が増えてきているとの報告がある。 そこの状況確認と魔王に関する情報を収集してきてほしい」何の装備も準備もないのにもう出撃命令か。
「何もわからない、丸腰の、俺に、一人で行けと!」
半分キレたように国王に向かって言う。
「あいすまぬ。村までの案内はするようにと、馬車は用意してある。
それと武器や防具については、この中から使えそうなものを選んでくれ」国王がそう言うと、兵士たちが武器や防具を持って目の前に立ち並んだ。
「年代物だが手入れはきちんとしてある。どれでも好きなものを選んでくれ」
見せられたとしても、初めて見るんだし、良し悪しがわかるか。
こういうのはフィーリングで選ぶしかないかな。 並んでいる装備を眺めていると、変な声が聞こえてきた。「……を選……ぶ……のじゃ……
そ……この……剣……」しっかりと聞き取れないような声が聞こえる。
その声に答えるように俺も言葉を発する。「これか?」
そういいながら、ある剣を手に持った。
「そうじゃ、それじゃ。その剣じゃ」
手に持ったらハッキリと頭の中に聞こえてきた。
ビックリした俺は、目の前にいた兵士に尋ねた。「お前、何か喋った?」
兵士はビックリした様子で、首を横に振った。
なら、この声はどこから聞こえてくるんだ。
でも、この剣、なんとなくフィーリングがいい。「それじゃ、この剣を貰います」
他にもいくつか、防具などを見繕い、持っていくことにした。
それから王様からは
「あとは、こちらが準備金になる。足りないものがあったら買うといい。
勇者殿、あとはよろしく頼んだぞ」笑顔でこちらを見ている。
そう笑顔で頼られるのは悪い気はしない。「どこまで出来るかわかりませんが、出来るだけ頑張ります」
と、つげて、大広間から先ほどの部屋に戻った。
「さて、どうしたものかな……」
部屋に帰り、椅子に座る。
ボソッとつぶやきながら、貰った剣を持ち上げて眺めてみる。そういえば、さっき聞こえてきた声はなんだったんだろう。
誰かがアドバイスをくれたのかな。 そう思いながら、剣を隅々まで見ていると、突然声が聞こえてきた。「でかしたぞ。よくワシを選んでくれた」
そして、剣の先から一人の女が現れた。
昨晩、国王が宴で突如発表した武闘大会――なんか俺も出ることになっている。相談も無いし、出るとも言っていないんだが……「ゾルダ、お前国王様に何か吹き込んだ?」どうせゾルダが何か仕掛けたのだろうと思い、問いただした。「さぁ、のぅ…… 何のことやらさっぱりわからんのじゃ」ゾルダはあくまでもしらを切り通すらしい。その顔はにやつきが止まっていない。「あのさ…… 俺がいつ出るって言った? そもそも武闘大会なんて出ている時間もないんじゃないのか?」「まぁ、まぁ、そう目くじら立てんでものぅ。 ここでおぬしが出なければ国王様のメンツをつぶすことになるぞ」「ぬぐぐぐ…… そりゃそうだけどさ……」なんかゾルダにしてやられた感じがある。悔しさが顔に滲み出る。「いいのではないでしょうか。 アグリ殿のいい訓練とこれまでの成果を試す場としては」セバスチャンは前向きにとらえるようにと俺にアドバイスをしてきた。確かにそうではあるのだが……「でもさ…… 俺って強くなっているのかな…… 魔王軍との戦いでもそう役に立った覚えはないし」「アグリはそんなこと気にしているのですか? そりゃ、ねえさまやセバスチャン、マリーに比べたら弱いですが…… 人族ならそこそこいけると思いますわ」マリーからどストレートな意見を言われた。しかもそこそこって……「そういう評価なんだ、俺って…… でもさぁ、勇者が簡単に負けたら、何を言われるかわからないし…… この状況って、俺は勝たないといけないよね。 プレッシャーも半端ないんだけど……」弱音や愚痴が次から次へと口から出てくる。自信がないし、強くなったかもわからない。でも勝つことを義務付けられているような大会だ。そんな感じでどう戦えと言うのだ。「おぬしは相変わらずグチグチ言うのぅ。 腹をくくるのじゃ! 今までの成果もあるし、ワシらから訓練もしておる。 もう少し自信を持たぬか!」俺の愚痴にイライラしたゾルダが俺に対して怒りをぶつけてきた。「ワシがせっかくお膳立てしてやったのに…… おぬしが越えられぬ壁を用意したつもりはないのじゃ! 十分強くなっておる。 人族相手なら正直手加減したほうがいいぐらいじゃ!」自信を持て、強くなったと言われても、結果が出ていない以上実感がないのも事実である。そこを
アグリ殿が国王と謁見なされた後に、部屋に通された私たちはしばらくの休息と相成りました。お嬢様は部屋に用意されていた食べ物や飲み物を頬張っておりました。またこの後宴があるのに、どれだけ食べられるのか……少し小言を言わないといけないかもしれません。マリーは……相変わらずお嬢様にベッタリですね。前から人前でそのような態度をとるのを改めるように言っているのに……なかなかと改めません。こちらもいずれ一言言わないと……ふぅ……アグリ殿は今までの訓練の疲れもあるのか、ベッドで横になって寝ているようです。私の訓練も人族として考えれば過酷なものです。魔族のエリート用のものですから。それをギリギリでもついてこれるのは、やはり勇者だからなのでしょうか……お嬢様の所為で目立ちはしないですが、アグリ殿も十分強くはなられているとは思います。ちょっと卑屈というか自分自身を過小評価されているようなので……どこかで成功体験を積ませればさらに伸びそうな方です。お嬢様のそばに立って部屋を見渡してそのようなことを考えていました。封印されてからどのくらいの月日がたったかわかりませんが……またこうしてお嬢様と共にあることができるは非常に感慨深いです。この時をできるだけ長く続けられればと思います。そのためにも、もう1ランクも2ランクもアグリ殿を底上げしなければなりません。今後は実戦も取り入れてさらに強くなっていただきましょう。封印が解けてからゆっくりと考えることもありませんでした。いろいろと考えてしまいました。しばらくすると、国王の使いが部屋に入ってきました。――コンコン「宴の準備が整いました。 お召し物は部屋に準備してありますので、御着替えいただき、会場までお越しください」「これはこれはご丁寧にありがとうございます。 承知いたしました」私は国王の使いに挨拶をしました。使いの方のも丁寧にお辞儀をして戻っていかれました。それからクローゼットの中を見ると、衣服がたくさん用意されていました。お嬢様とマリーはあれやこれやいいながら服を選んでおりました。アグリ殿はこういった場はあまり好きではないようで、何を着ていけばいいのかと悩んでおりました。それを見かねたお嬢様とマリーは、アグリ殿の服を選んでいました。ただその後がいけません。アグリ殿の前で、
訓練と移動を繰り返しながらさらに数日――ようやく首都セントハムに到着した。その間、魔王軍が襲ってくることもなく……あれだけちょくちょくと現れていた魔王軍だったのに。「なんかここに辿りつくまで、魔王軍は一回も来なかったな。 ちょっと不気味に感じる……」俺はゾルダにそう話しかけた。「そりゃ、当然じゃろ。 あれだけギタギタにされて、策もなく突っ込んでくる奴らはおらんのぅ。 どうせ、ゼドのことじゃ、何かまた企んでおるのじゃろぅ」ゾルダは『これだけ負ければ普通は考える』と言わんばかりに答える。「メフィストは流石にゼド様の下に戻っていないとは思いますが…… 連絡がないことに異変を感じていらっしゃるかと。 次の策を考えているところでしょう」セバスチャンはゼドの心中を察するかのようなことを言っている。詳しくは聞いていないけど、セバスチャンもゼドとの付き合いは長いのだろう。「あきらかに力負けしているのだから、ねえさまが言い通りですわ。 ゼドっちもバカではないですから」マリーもみんなの意見に同調していた。「そういうものかな…… 魔王軍はもっとなんかこう脳筋ばかりかと……」今までが今までだけに、浅はかな考えでくる奴らばかりなのかと思っていた。そう感じたことを口にしたのだが……「それではワシらがバカみたいではないか」とゾルダが怒り始めた。「いや、そういう意味ではなく……」しどろもどろになっている俺をセバスチャンがフォローしてくれた。「お嬢様、アグリ殿は今の魔王軍のことをおっしゃっているのですよ」「おぅ、そうか。 確かにワシが魔王していた頃より、考えが浅い奴らが多い気がするがのぅ。 それもゼドの自業自得じゃろ。 あれだけ自己中心的なら、周りから何も言えんのぅ」ゾルダさん、自分の事を棚に上げて自己中とは……「えっ…… ゾルダも十分自己中だと……」「ワシがか? どこが自己中じゃと? ワシは周りの事をいつも思っておるぞ」どこが周り思いなのか……俺は振り回されているけどね。「はいはい」そんな思いが言葉の端々に滲む返事をした。「おぬしはその、『はいはい』と軽くあしらうのをやめるのじゃ。 でもないと…… おい、セバスチャン! こいつの訓練、もっと厳しくするのじゃ」「はっ、仰せのままに」この数日で少しは耐えれる
メフィストが襲来してから数日が経ちましたわ。あれから、首都へ向かいながら、合間にアグリが訓練をする日々が続いています。一人ではかわいそうなので、マリーも一緒に付き合っていますわ。「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ…… あり……がとう……ございました……」「いえいえ。 まだまだ足りないところもありますが、少しは良くなってきたと思います」セバスチャンにお礼を言うアグリですが、だいぶ息があがっていますわ。マリーは平気なのに。「おっ……セバスチャン。 もう少し手加減してあげてもよくないですか? これでは、首都へ向かうにも時間がかかってしまいますわ」「これでもだいぶ手加減しておりますが…… その証拠にマリーは全然疲れていないはずです」「それはそうなのですが……」アグリは以前よりかは強くなってきているとは思うのですが……まだまだマリーたちに比べると弱いのは確かですわ。でも、だからと言って事を急ぎ過ぎているかもとは思います。「マリー、ありがとう。 でも、いいんだ…… こうしていた方が、あれこれ考えずに済むから……」「アグリがそう言うのであれば、マリーとしては別にいいのですが……」アグリは何故これだけ一生懸命になるのかがマリーにはわかりません。正直、ねえさまやセバスチャン、マリーが居れば、ゼドっちなんかは簡単に倒せますわ。アグリが強くならなくても、困りはしないはずですが……「少し休憩したら、先へ進もうか。 訓練していたからって遅れる訳にはいかないし」アグリはバタンと横になると、一息つきながらそう言いました。「少しは様になってきているかのぅ…… さすがセバスチャンじゃ。 ワシもあやつにいろいろ言っておるが、セバスチャンの方がより的確じゃのぅ」「お嬢様…… 勿体ないお言葉……」ねえさまはセバスチャンの教え方がいいと褒めているようですが、厳しいのには変わりはないですわ。マリーはいろいろ時になって、横になっているアグリの上にドンと乗っかって確認をしました。「ねぇ、アグリ。 別にそこまで訓練しなくても今まで通りで良くはないですか? この先だって、マリーたちは一緒に行きますし、ゼドっちを倒すまでは協力しますのに」「休んでいる俺の上に乗って聞くことじゃないけど……」「あら、失礼しましたわ。 でも、この方が楽に話せるかと思って」
現実は残酷だ。ゲームのように順序だててことは進んでいかない。ましてや、俺の強さに合わせてちょうどいい敵など出てこない。たぶん最後俺を殺そうとしたのだろう。メフィストは俺の目の前に来たが、抗うことしか出来なかった。ゾルダの一発で事なきを得たけど、普通のパーティーだったら全滅していたと思う。「それにしても、おぬしなぁ…… もう少しなんとかならんかのぅ……」ゾルダは呆れかえっていた。そりゃそうだ。今の俺の強さでは敵いっこない相手だった。「俺だって頑張っているんだって。 敵が急に強くなり過ぎなんだよ。 普通は徐々に強くなっていくのが鉄則なのに……」「普通とは何じゃ? 強い奴らはどこからでもビューっと飛んでくるぞ。 ヤバいと思ったら、叩き潰しに来るからのぅ」ゾルダの言うとおりである。ゲームのように強い敵はあるところに鎮座して勇者たちが来るのを待っている訳ない。危険と感じたら、容赦なく襲い掛かってくる。俺の考え方がまだまだ甘いのだ。「…………」返す言葉が見つからなかった。嵐のように始まった今回の戦いでも、俺は何も出来なかったのだ。本当に役立たずだ。メフィストを撃退し、マリーは飛び跳ねて喜んでいた。セバスチャンはクールに保ちつつも晴れやかな顔をしていた。ゾルダはいつも通りの傲慢な笑顔を見せていた。その中で俺は……「俺は何も役になっていない」周りに聞こえないようにボソッとつぶやいた。そう聞こえてないはずなのに……「なんで周りにお前らがいるんだ!」ゾルダにマリー、セバスチャンが俺の周りに集まっていた。「アグリが元気ないからでしょ!」マリーは俺を気遣ってくれているようだ。「アグリ殿、いい時も悪い時も誰だってあります。 反省して次に活かしましょう。 大丈夫です。私が鍛えて差し上げます」セバスチャンは諭すように話、さらっと俺に訓練の提案をしてくる。いや、そりゃ役に立ちたいけど……魔族の訓練なんて、俺死んじゃうよ。「おぬし…… その…… 弱いのはいつものことじゃ! 気にするな」ゾルダはいつも以上に辛らつだ。「ねえさま…… それはちょっと…… ここは嘘でも問題ないと言ってあげないと」あの、マリーさん……その一言は何気に傷つきます……「……で、落ち込んでどうするのじゃ。 それで強くなるなら
あのメフィストとやらは何をしておるのだ……ワシが立ち会って、1対1でセバスチャンと戦っておったろうに。何故、あやつの目の前に立っておる。「お前……あやつに何をする気じゃ!」「ハ……ハッ……ハハハ…… ワタシは結果を出さないと…… ゼド様に……ゼド様に……」もう正気ではなさそうじゃな。周りに引き連れていた奴らも殺気立ち始めておるのぅ。「メフィストとやら、セバスチャンとの1対1はどうなったのじゃ? 歯が立たないからと言って矛先を変えるのか? お主のプライドはどこへ行ったのじゃ!」「ゼド様に……ゼド様に……いい報告をしなければ……」もう目もうつろじゃのぅ。目の前のことより、ゼドのことしか見えておらんようじゃ。あいつもそこまで側近を追い詰めなくてもよいのにのぅ……「お前の方が先に約束を反故にしておるのじゃからな。 マリー、セバスチャン、周りの奴らは任せるぞ」「はい、ねえさま。 任せてくださいませ」「仰せのままに」二人はメフィストとやらが従えていた数十名を抑え込みに行ってもらった。ワシは、あやつを助ける。「なんで急に俺のところに来るんだ?」あやつも混乱しておるようで、むやみやたらに剣を振り回しているだけじゃった。もう少し冷静に行動したらどうなのじゃ……「そんな攻撃じゃ当たるもんも当たらんのじゃ。 気をしっかり持てぃ」じりじりとあやつに詰め寄るメフィストとやら。まずはそいつを止めないといかんのぅ。ここから魔法をぶっ放してもよいのじゃが、それだとあやつも巻き込まれてしまう。ワシはあやつとメフィストとやらの間に割って入ろうと動き始めた。……が、その時、ワシの目の前が真っ暗になり、視界が閉ざされてしまったのじゃ。「??? 何じゃ、急に」視界は遮られておるが、周りの様子は伺えた。他の3人には変わった様子がないようじゃ。マリーやセバスチャンはメフィストとやらのお供も蹂躙していっておる。あやつもまだメフィストとやらに抵抗をしておる。でも、その動きは何やらだいぶ遅く感じるのぅ……「どうやらワシだけのようじゃな……」冷静になり、周りを窺っておると、目の前に何かが現れおった。「…………」それは以前にも見た覚えがあるものじゃった。「勇者の怨念じゃな」あの剣の中に共に封じ込められておる奴らが、何故今邪魔をしに